朝白屋日記 天然石・シルバーアクセサリー製作

アクセサリーの製作過程や日常の事を徒然なるままに

観た 「この世界の片隅に」

3週間ほど前になるが、映画館へこの世界の片隅に、を見に行った。

それから今日まで、気がつくとこの映画の事を考えてしまっている。

なんというか、どういった感想が適格なのか思い浮かばないのだ。

 

 

単純に悲しい物語だから心に残るのかといえばそうではない、自分の中で様々な感情が入り混じってどう表現すればよいのか考えあぐねている。これはもしかしてすごい映画を観ちゃったんじゃないのか、と思ったので、感想をまとめてみようと思った。

 

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物語はすずさんという一人の女性の視点で進んでいく。戦争をテーマにしているので当然悲しい場面もある。しかしそれ以上にコミカルなシーンが多かった、それはすずさんのキャラクターによるところが多い。物語が進むにつれて彼女にどんどん感情移入してしまうのだ。

 

この映画は極端に説明が少ない、登場人物のモノローグはほとんどないし物語を説明するナレーションもない。これは現代ドラマにみられる手法と逆を行く。

いかにも悲しい音楽を流して、今にも泣きそうな役者の顔を大写しにするような、情報過多な演出が今のドラマの主流だ、ほら!!泣け!!ここで泣け!という用意された泣き所はない。物語は説明不足なままに進行していく、一市民からみた日常をただ写しているのだ。観客の想像する楽しみというか、余白が沢山あるのだ、それがまたこの映画を味わい深くしている。

 

 

多くの戦争映画と同じくこの映画の根底には反戦がテーマとして流れている、しかしそれを観客に押し付けることをしないのだ、状況を淡々と写し、取り立てて悲惨さを強調することもない。

はじめて空襲を受けたときの演出が今も心に残っている。詳しく書くことは避けるが戦闘機のエンジン音や対空砲火の轟音が鳴り響くなか、映像は直接的な爆発は表現せず、綺麗な表現(としか表せないのだが)をしている、それがすずさんの心情を重なってあっけらかんとした画面上の表現とは異なって、とても恐ろしい物に感じた。

 

語らないことで真に語りたいことを浮き上がらせるこの演出が物語にぴったりとはまっていてより印象深いものにしている。

 

ネタバレを避けるために回りくどい言い方しかできないのがまどろっこしいが、劇場で観てよかった映画だった。その映像表現と演出法で、2時間を越える長さの作品だが、あっという間だった。

それともうひとつ印象深かったが観客に高齢の方が多くいたのだ。他の作品ではあまり見かけないので少し驚いた。どんな感想を持ったのか話を聞きたかったがさすがにそれはできなかった。

 

 

最後に、原作は上、中、下からなる漫画なのだが、これも良かった。映画では時間の問題があったのか、あるエピソードというか登場人物がまるまるカットしてあるのだ、このエピソードがまた物語に深みを与えている。私は映画を観てから漫画を読んだのだが、このシーンはこういうことだったのか!と漫画で補完される場面もありより楽しめた。順番は逆でも楽しめると思う。映画は映画の、漫画は漫画のそれぞれの面白さがある。

 

 なんというかどの感情とも当てはまらないような不思議な印象であった。

DVDが発売されたらきっと買ってしまうと思う。

何度も繰り返し観たくなる素晴らしい作品だった。